甘え

年の瀬のある夜。

酔っ払って連絡してきた彼。
どうしても、嬉しくて、会いたくて、声が聞きたくて。
言われるがまま迎えに行ってしまう自分。
寒さが心地よいっていう感覚は久しぶりだった。
ずっと思い返してたその後ろ姿を見つけて、そっと近づいていく感覚は、中学の頃を思い出した。
自転車の二人乗りは高校以来。
あの時は恥ずかしくて、お腹に手を回せなくて、肩を掴んで漕ぎづらいって言われたんだ。
次乗る時はギュッとって。
その、次が、こんなに不意に来るとは思わなかったな。
もうない事と思っていた。
チャリ乗ったのなんか、何年ぶりだろ、あぁねみー、全然進まねぇじゃん、俺が歩いた方が早いだろ
とか、あーだこーだ言いながらも家まで漕いでく。
ギュッとは出来なかったけど、ダウンの横腹あたりを掴んで、ただその時間を噛み締めていた。

彼は強引なようで、さっと引いてしまう事があるのも分かってる。
だから、この夜の決定打は自分からだったのかな。
先輩の言葉が何度も頭をよぎる。

仕事の話を聞いてると、しっかりやってるんだなって尊敬の念が湧いてきた。
そういう話をしてくれるのが嬉しくもあった。
見慣れたところなのに、2人でいる。
タバコの匂いだって、くさいっていいながらも本当は愛おしかった。
見つめない。触れない。ただ隣で眠るだけ。
そこが今までの誰とも違うんだ。
今の私にはそれが一番幸せで、律儀だと感じられて、そこがまた擽られる。
手、出してもいいよ、とさえ思えるんだ。
こんな事ない。
静かな寝息、朝方の微かないびきが、自分も心許されてるんじゃないかと思わせて、愛しさを増していく。
時間が止まったらいいのに。
そんなセリフを、自分が心から思う日が来るなんて思っていなかった。
どうか空が明るくならないで、と無謀にも願いながら彼越しのカーテンを見つめる。
綺麗な横顔、でも直視する勇気はない。
体動かすと、起こしてしまいそうで。

今年一年、大変なこと一つ一つ、よく頑張ったから、これは自分へのご褒美だ、と。
誰にも言わなければいい、と。
分かってる。これは甘え。いけないこと。
でも吐き出したかった。

one more time one more chance